The girl who denied oneself
自分の記憶を無くし、壊れたように笑う女。
そして、死んだ家族。
放火によって上の様になったある一家。
一人だけ生き残った女はカウンセリングを受けながらも一向に回復の兆しが見えなかった。


女はある日とんでもないことを言った。

「私が自分で火をつけて燃やしたの。そして、記憶も何もかもがなかった事のように消して、自分をも壊したの」
「なぜ、そのようなことを…」

医者は絶句したように言った。

「淋しかったから…それに現実が嫌だったから。」
「……」

医者は何も言えなかった。あまりにも哀しそうな顔をした女に。

「ただ私は愛されてるっていう実感が欲しかったの。火事を起こす前も愛されてる実感はあった。でも、愛されてない確信の方が強かった。だから愛されてる実感だけ欲しかった。嫌なのよ、もう。淋しい思いをするのは…」

女はそう言って泣き出した。
すべて洗い流そうとしているみたいに。
医者は黙って女を見つめることしか出来なかった。
身体は大人でも心は親の愛に飢えた子供みたいな女を。



あとがき

短いですが、いろいろと長ったらしく書きたいと思っていたもの。
結局は、書きたいことを忘れてこんな短いものになってしまいましたが。
template : A Moveable Feast