The princess' first love.
「姫様、お支度の方はできましたでしょうか?」

そういつものように聞いてくる宰相。
私はいつもこの声にドキッとする。
そして、上手く答えられない。

「姫様?」

もう一度、声をかけてきた。

「はい、あの、大丈夫、です」

そう答えると、安心したような声が返ってくるのだ。

「入っても宜しいでしょうか?」
「えっ、あの、はい」
「失礼致します」

ガチャ。
扉を開けて入ってきた人物はやはり、宰相だった。

「姫様、お食事の準備が出来ましたので、こちらへ」

やはり声に惹かれ、眼差しに惹かれ、顔立ちに惹かれる。
この男だけが自分をこんなにも惑わしてしまう。

「姫様?どーかなさいましたか?私の顔に何か?」
「あっいえ、別に」

知らずと見惚れて見入っていたらしい。
視線を外すと恥ずかしさが込み上げてきてだんだん顔が赤くなっていくのがわかった。

「お顔が少々赤いですね。気分の方はいかがですか?」

なんともボケた発言だ。
しかし、姫は姫で顔を覗き込まれているので余計に顔を赤くするほかなかった。

「さっ姫様、お風邪でもひかれていたら大変ですのでベッドへ戻りましょう」

そう言って今通ってきたところを引き返そうとする宰相。
しかし、1歩も動かない姫。

「姫?」
「・・・・・・・」
「姫様?」
「・・・・あの、もう少しだけ、傍に、いて…もらえま、せんか?」

もちろん、返事を聞くのは怖かった。
恐かったからこそ、彼が背中を向けたときにジャケットをちょこっとつかんで訊いたのだ。
私は返事が返ってくるとわかった瞬間、つかんでいた手に力をこめ、ぎゅっと目を瞑った。
そんな私に呆れたのか、降参したのかわからないがため息を一つつかれた。

「降参です。そんなかわいらしいことをされたら俺だって我慢できなくなってしまいます」

言ったとおりお手上げ状態ですと言わんばかりの、手を上げて困ったような苦笑した表情はまた私をときめかせた。

「あの、えっと」
「では、お食事になさいますか?」
「あの、はい」

やっとのことでそう伝えられた私はちょっと疲労困憊気味だ。
好きな人と喋るのはなぜ、こうも緊張するものなのか。
宰相が機転を利かせて訊いてこなければ、一人でワタワタとし結局ただでさえ少ない時間が余計少なくなるのだ。
それが嫌で今日はあんなことをしたというのに。
迷惑ではなかったか、嫌ではなかったか、と今更になって考えてしまう。
隣で歩いている人の表情や自分の手がどうなっているかなど知らずに。


このとき、宰相の頭の中では初めてお願いされたと喜びと嬉しさをかみ締めていた。
緊張でいつもより鈍くなっている姫の手をひきながら。





あとがき

最初に言っておきます!
本編(Long小説)とは一切関係ありません。
ただ単に主従物を読んで影響されて書いただけなのであしからず。
これを書いてみて思ったことは、主従物好きだなぁってことです。
特に女の子の方が位が高いのが好きですね。
無理難題なわがままをいう姫、かわいすぎです。
それに文句を言わずに従ってる男も素敵ですが…

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