the woman of one's dreams
今日はバイトでヒーローショーに出ていた。
もちろん司会者として。
最初は嫌だと断ったのだが、ジャンケンに負けてしまい出る羽目になったのだ。
これだったら着ぐるみの方がマシだと思いながら淡々と進めていく。
「はーい。みんなー、今日は特別にレッドレンジャーからプレゼントがありまーす。
なんと、今日の活躍を応援してくれたみんなにサインをしてくださるそうです。
実は、おねーさんもちょっと前に貰っちゃいましたー。
欲しいお友達はあちらのお兄さんの前に一列に並んでくださーい」
一部のショーも終わり、サイン会の司会を進める。
「サインを貰ったお友達から順番に写真撮影も行っておりますので、一緒に撮りたい方は一枚500円からお受けいたしております」
進行表を見ながら言わなければならないアナウンスは終了したと思い、一息つく。
ふと、下からの視線に気付き、向けると男の子がいた。
年は6歳くらいだろうか。
しゃがんで視線を合わせて声を掛ける。
「どうしたのかな?お母さんと逸れちゃった?」
「サイン、ちょーだい」
「サイン?おねーさんの所じゃなくてあっちのお兄さんの所に並ぶんだよ。
おねえさんも一緒に行ってあげるから行こっか」
男の子の手を握って、スタッフの方へ連れて行ってあげようとすると。
「…おねぇさんの」
「ん?あ、おねぇさんが貰ったやつ?ごめんね。これはあげられないんだ」
「ちがうの、おねぇさんのサインちょーだい?」
「へ?」
男の子は私のサインが欲しいというのだ。
生まれてこの方サインなんて頼まれた事もないし、書いたこともない。
そう思って、悩んでいると。
「あのね、おれ。おねぇさんにひとめぼれしたの。けど、めいわくだったら、いい」
「迷惑なんかじゃないよ?ホントにおねぇさんのでいいの?」
「うん、おねぇさんがいい」
きらっきらの笑顔で言われたら断れないよー。
なんて心の中で嬉しい悲鳴をあげつつ、色紙に名前を書く。
「ありがとーおねぇさん」
「いいえー」
10年後。
私はそのままバイト先に就職をした。
若いうちは司会業に引っ張り出されていたけれど、この年になるとさすがにってことで事務職をしていた。
今日またバイト君が新しく入ってくる。
どんな子なのか楽しみだ。
「こんにちはー」
「はーい」
あとがき
前に日記でネタ出ししたやつです。
まんま引っ張ってきた為短いです。